娘の不登校を忘れた頃、夫が頼み事をしてきた。
「先輩の娘が不登校らしくて・・・、相談に乗ってやって欲しいんだけど。」
「え?なんで先輩があなたに相談してくるの?私が不登校だったことをまさか言いふらしてるの?」
私はこのことを確認せずにはいられなかった。
夫は悪びれもせずに
「言いふらすようなことはしないけど…、そりゃ聞かれたら言うよ。別に隠すようなことでもないし。」
「先輩がわざわざ、あなたの奥さんは元不登校ですか?って聞いてくるわけ?何の前触れもなく?突然?」
夫はもごもごと何か言っていたが、もうわかってる。夫はそもそも私のことを、「ひきこもりから復活した頑張り屋さん」と思っている。たぶん、夫から言ったのだろう。私のせいで親に勘当されたことは忘れているのか?あきらめて聞いた。
「何の相談?」
「いや、何の?っていうか、詳しくは聞いてない。なんか、小学校の頃から学校行ってないらしい。」
「今、何歳?」
「確か、20代。」
「正確には小学校何年生の頃から学校行ってないの?」
「聞いてない。」
嫌な予感しかしない。
「なんか、暴れるんだって。」
私は返事をせずに聞いていた。
「猫の毛を切ったり、首絞めたりするって。」
「吐くまでたくさん食べてトイレで吐いてたけど、浄化槽の点検で糖が出て業者から、お宅、糖尿病か吐いてる人いるって聞かれて注意したら庭で吐くようになってすごい臭いするようになって近所からクレーム来たんだって。下水通ってたらそんなことにならなかったのになあ。」
夫は最後に的外れなことを言った。
下水云々は関係ないだろ…。
「私は何もできないよ。もうそれは完全に精神科の領域でしょ?アドバイスできるとすれば精神科の予約取れってことと、一言苦言を呈するなら、よくもそこまで放っておいたな!ってこと。」
彼女の状況を聞き胸が痛んだ。彼女の空っぽな心、孤独に支配された恐怖、絶望は言葉にできない。それを軽い言葉で表現する夫に腹が立ったが、こういう人がいるおかげで私のように救われる人間もいる。
私が暗い顔をして考え込んでいると夫が言った。
「それで、先輩も将来を心配して娘さんが将来生きていけるように中古マンション買ったって言ってたし。」
「バカなの?」
先輩ってバカなの?
思わず口に出た。
「いや、バカじゃないよ、たしか○○大。」
「そういう意味じゃなくて。」
甘く見積もって小学校高学年で不登校になったとして、今20歳としても10年近く引きこもっている。もし20代後半なら20年近くだ。大切な成長期を一切集団生活をせずに過ごしていたことになる。絶望しかない。
ごめんね。
私には救えない。やっかいなことに巻き込まれたくないと思ったが、娘さんのことを思うと胸が痛んだ。
「もし、社会に出たいと本人が言ってるなら連絡してって伝えてくれる?私が最初の社会の人になるから。でも必ず親と病院に行くこと、それが条件。」
たぶん、連絡は来ないだろうな…。
そう思っていたら、思いがけず自宅に電話がかかってきた。
長くなるので続きます。
ご本人に許可を得てブログに書いています。